「こんな店構えだったっけ?」
「やまと」の前へやってきたせいじと父親。
少し並び、店内へ。リフォームされて綺麗になっているものの、味は記憶を呼び起こす。中華そば、ばりうまだ。二人して中華そばとカツ丼小を平らげた。還暦を過ぎても食欲、いや、食力の衰えない父親の姿にせいじはちょっとした安心感を覚えるのであった。内臓が健康なのはいいことだ。それに関しては父方も母方も強い家系だ。そしてせいじも例外ではなかった。
ごちそうさまして、再び岡山の炎天下へ。
「美術館でも行くか。」父親が言う。
なぜ美術館なのか、せいじには分からなかったが、恐らく父親もノープラン発言であったことは想像に難くなく、ノープランにはノープランで応じるのが一番良いと思われる。
一路美術館へ。
美術館では壺が展示されていた。ぐるっと一周、無言、たまに感想「オシャレだね」、江戸時代前後の壺を眺めた二人。ロビーで腰かけ、無料のほうじ茶をすする。
庭の、これ以上なく緑色な芝生の上をトンボが一匹飛んでいた。
夏が終わろうとしていた。
終わらないか、まだ7月。流れでそう言いたくなったせいじであった。
ホテルに戻る道すがら、とある三階建ての立派な家に、1人の男性が入っていくのをせいじは見ていた。せいじはその男性の顔を見たことがあった。なんとそれは、ついさっき中華そばを目の前で作っていた「やまと」の店主だったのだ!
表札を見ると「大和」。
つまり、これぞラーメン御殿だったのだった!